大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ整形外科学教室

研究室・研究グループ紹介:整形外科学教室

整形外科学は頭頚部を除くほぼ全身の運動器、すなわち骨、関節、靭帯、筋、脊椎・脊髄/末梢神経の生理および病的状態を学問の対象としております。これら多岐にわたる臓器の病態解析や治療成績の向上のため、臨床研究にとどまらず形態計測、バイオメカニクス、神経生理学、分子細胞生物学などの多様な研究手段を用いた基礎研究を行っております。

各研究グループの紹介

当教室の研究テーマは、脊椎脊髄疾患、骨代謝・高齢者運動器疾患、関節疾患、運動器外傷および骨軟部腫瘍の5つがあります。各分野をリードする先端的研究指導者が研究成果を国内外に発信しております。

脊椎脊髄疾患研究グループ

当研究グループでは、高齢化に伴い増加の一途をたどる外科的治療を必要とする脊椎脊髄疾患患者さんの治療成績向上のため、また治療の安全性を高めるために下記の研究に取り組んでおります。

(1) 臨床研究

脊柱変形疾患から椎体骨折、脊椎炎症性疾患など多岐にわたる疾患を対象に、当院関連施設や他の医療機関と多施設共同研究を行っております。具体例をいくつか挙げますと、成人脊柱変形に対するLIF(lateral interbody fusion)を用いた治療成績の検証や治療成績の国際間比較、矯正固定術後に生じるADL障害などに関する研究、また骨粗鬆症性椎体骨折に対する固定術の術後成績や術後経過不良例に関連する因子の解析に関する研究、低侵襲手術であるバルーン椎体形成術(Balloon Kyphoplasty: BKP)の治療成績や術後隣接椎体骨折の危険因子の検討、また高度な骨脆弱性を伴った椎体に対するより固定性の高い新規スクリュー刺入方法(Double Endplates Penetrating Screw:DEPS法)の開発に関する研究、本研究の有効性に関する有限要素解析を用いた研究、化膿性脊椎炎に対する手術治療の成績に関連する因子の検討、術中脊髄モニタリングの信頼性向上に関する研究などを行っております。

(2) 基礎研究

脊髄神経生理

脊髄機能に対して電気生理学的手法を中心に、行動解析、神経トレーサーを用いた神経解剖、マイクロアンギオグラフィー、選択的脊髄切断など高度な手法を組み合わせて研究しています。

① 脊髄誘発電位に関する研究

脊椎高難度手術(靭帯骨化症、脊柱変形、脊髄腫瘍)を行う上で、手術による麻痺を防止する目的で術中脊髄モニタリングは必須の検査です。しかし、偽陰性や偽陽性もあり、電位の解釈が難しいことが問題となっています。その理由の一つは、電位の起源が明らかにされていないことにあります。脊髄の選択的切断モデルを用いた電気生理学的手法により、電位の発生起源と伝導経路を明らかにすることにより、術中脊髄モニタリングの診断精度を向上させることを目指しています。

② 神経損傷後の脊髄可塑性に関する研究

小児期の中枢神経損傷は、成人期の損傷に比べて機能障害が少ないことが知られていますが、その理由は明らかではありません。脳損傷、脊髄損傷、末梢神経損傷後の脊髄可塑性について、小児期と成人期の違いを明らかにすることにより、成人期の中枢神経損傷後の機能改善につなげることを目標としています。

③ 脊椎腫瘍と脊髄麻痺に関する研究

脊椎腫瘍による麻痺は進行が早く、手術による改善率も不十分であることが現状です。脊椎腫瘍モデルによる腫瘍進展と麻痺発症のメカニズムを解明することにより、有効な治療介入時期を示し治療効果が向上することを目指しています。

脊髄運動生理

基礎の統合生理学教室と共同で、独自の研究装置を作製し、上肢の運動機能を解析する研究をしています。動物実験とは異なり臨床の患者データをもとに研究を行い、現在ではタブレット端末を利用して汎用性や利便性をさらに追求した研究も行っています。この研究班から多くの研究者を国内外の学会発表や論文を産出しております。

関節疾患研究グループ

当研究班ではNAKASHIMAメディカル(現:TEIJIN NAKSHIMA)と共同で、3次元透視画像装置を用いて日本人膝の骨形態を計測し、日本人に適したインプラント設計をコンセプトとして、杏林大学式人工膝関節=Venus Kneeを開発しました。臨床使用を2009年より開始し、現在症例数は1000例前後となっています。

Venus KneeはPS、Mobile Bearing型の人工膝関節で、ポリエチレンインサートへの応力負荷が問題になりますが、3次元有限要素法を用いて、日常生活動作における応力解析を行い充分な強度を有することを証明し、臨床上もポリエチレンの破損等は認めて降りません。Mobile Bearig型の人工膝関節は世界で広く使用されていますが、生体内でどのような動態を示すかは、はっきりと証明されていません。

我々は大阪大学に協力を頂き、image-matching法を用いてVenus Kneeの動作解析を現在行っております。現在までの結果では、正常膝に近い動態を示すことがわかってきており、現在研究を継続しております。

骨代謝・高齢者運動器疾患研究グループ

家兎の仮骨延長モデルを用いて副甲状腺ホルモン(PTH)が仮骨形成にどのように作用するのか解明することを目的とした研究を続けています。これまでの研究成果として、PTHが延長仮骨のリモデリングや力学的強度の増強に有効に働くことがわかりました。この研究結果は権威ある米国骨代謝学会のYoung Investigator Award受賞(Maruno,2007)という形で国際的に評価されました。

その後、PTHにより仮骨成熟期間が短縮されること(Ohata. et al. JOSR, 2015)、PTHには至適投与時期が存在すること(Inada. et al. JOSR, 2022)を示しました。今後も新たな仮骨延長法の開発、臨床応用に向けて更なる研究を続けています。

また超高齢化社会における健康寿命延伸に重要なロコモティブシンドロームに関する臨床研究も行っております。地域の老人クラブと協力し運動介入の有効性や問題点の検証を行っております。

外傷研究グループ

高齢者骨折と骨粗鬆症との関連性を重要視し、成績不良因子となり得る骨粗鬆症の程度を術前に評価して治療法に反映することを目的とした研究を行っています。

高齢化社会を迎えた我が国において年間約20万人に発生するとされる大腿骨近位部骨折は大きな社会問題になっています。その中でも大腿骨転子部骨折は治療法として骨接合術が多く選択されますが、その臨床成績には大きな差異がみられます。

現在我々は、本骨折における骨接合術が画一的な治療になり易いことを問題視し、個々の骨粗鬆症の程度に応じた個別的な治療法を術前に選択できるようにするために、様々な研究に取り組んでいます。

骨軟部腫瘍研究グループ

かつては不治の病であった悪性骨軟部腫瘍は近年の医学の進歩により根治が可能である疾患となりましたが、治療の甲斐なく不幸な経過をたどる例は今でも少なくありません。また生命に差し障りのない良性腫瘍の治療においては、手術を安全に行い、患者さんの機能損失を小さくすることが必須です。

当研究グループでは、一人でも多くの患者さんの生命を救うこと、次世代の治療の開発に応用可能な骨軟部腫瘍の生物学的特徴に関する知見を集積すること、治療を安全に行うこと、治療中および治療後の患者さんの良好な生活の質(QOL,quality of life)を維持することを課題として、様々な研究に取り組んでおります。

(1) 一人でも多くの患者さんの生命を救うために

悪性度の高い骨軟部腫瘍を完治するためには、手術に加えて化学療法(抗癌剤)を効果的に使用することが必要です。治療成績向上には、より有効な化学療法投与法の開発が不可欠ですが、骨軟部腫瘍は希少がんであるため、単一施設での臨床研究は不可能です。当施設では日本の代表的がん診療施設から構成された日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の多施設共同研究に参加し、新たな化学療法の開発に寄与しています。

【JCOGによる多施設共同研究】
  • JCOG0304 高悪性度非円形細胞軟部肉腫に対する Ifosfamide、Adriamycin による. 術前術後補助化学療法の第Ⅱ相臨床試験
  • JCOG0905 骨肉腫術後補助化学療法における Ifosfamide 併用の効果に関するランダム化比較試験
  • JCOG1306 高悪性度非円形細胞肉腫に対するadriamycin, ifosfamideによる補助化学療法とgemcitabine,docetaxelによる補助化学療法とのランダム化第II/III相試験
  • JCOG1802 ドキソルビシン治療後の進行軟部肉腫に対する二次治療におけるトラベクテジン、エリブリン、パゾパニブのランダム化第II相試験
  • JCOG2102:切除可能高悪性度非円形細胞軟部肉腫に対する術前術後補助化学療法と術後補助化学療法とのランダム化比較第III 相試験
【当研究グループが自施設内で遂行している化学療法に関する研究】
  • 進行期悪性軟部腫瘍におけるSecond line化学療法の有用性の検討

(2)病態生理の解明

希少であることに加えて種類が大変多いため、骨軟部腫瘍に関する新知見を得るためには、多施設共同研究が必要です。当研究グループは国内最大の研究プラットフォームである骨軟部肉腫研究会(JMOG)に参加し、研究を主導するとともに多くの研究プロジェクトに協力しています。また当施設の症例を研究グループ独自に分析し学会報告を行っています。さらに当グループ研究室においては、抗癌剤の有効な投与法を細胞レベルで解析するとともに、各種肉腫組織の遺伝子レベルの情報の集積/解析を行っています。

【主な多施設共同研究】

本邦における四肢/体幹部脱分化脂肪肉腫の治療成績(Japanese Musculoskeletal Oncology Group共同研究);当研究グループが研究を主導し、世界有数の症例数による解析を行い、その治療成績や効果的な手術法を研究しています。

骨軟部腫瘍患者に対する腫瘍素因遺伝子および腫瘍細胞における原因遺伝子の網羅的遺伝子解析研究;骨軟部腫瘍の発生の原因となっている複雑な遺伝情報を多くの施設とともに共同で解析し、疾患の発症メカニズムを解析しています。

【当研究グループが自施設内で遂行している研究】
  • 悪性骨軟部腫瘍におけるsIL2Rの診断的意義の解析
  • 人工肘関節によって再建した肘関節周囲の悪性骨軟部腫瘍の治療成績
  • 単純性骨嚢腫の治療成績
  • 悪性骨軟部腫瘍における低温条件下での抗癌剤活性増強作用の解析
【参加している共同研究プロジェクト】
  • 中高齢者原発性高悪性度悪性骨腫瘍の治療成績に対する研究
    ‐骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)多施設共同研究‐
  • 大腿骨全置換術に関する多施設共同レトロスペクティブ研究
  • 悪性骨軟部腫瘍に対する各種処理骨の長期成績に関する多施設共同研究
  • びまん型腱滑膜巨細胞腫の長期成績に関する多施設共同研究
  • がん治療関連運動器障害の実態調査 多施設共同研究
  • 高分化脂肪肉腫の超音波エコーレベルと病理所見の対比

(3)安全な医療

骨軟部腫瘍の治療は患者さんの体に負担となることが多く、手術や化学療法における合併症の発生率が他の疾患よりも高いことが知られています。当研究グループでは手術や化学療法を安全に行うため、臨床データを収集・分析しています。

【手術部位感染】

手術後に細菌などが創で繁殖する(手術部位感染症)と、長期の治療を余儀なくされるだけでなく、悪性腫瘍の治療の遅延につながります。当グループでは全国的な手術部位感染症の実態調査を行い、危険因子の抽出を試みました。その成果は権威ある筋骨格系感染症対策国際コンセンサス会議(2018年フィラデルフィアにて開催)に数多く引用され、エビデンス形成に大きな役割をはたしています。

(4)よりよいQOLを目指して

骨軟部悪性腫瘍の治療成績が向上するに伴って、治療中治療後の患者さんの満足度を向上させることの重要性が高まっています。本研究グループでは治療期間や治療後の患者さんのQOL調査を立案し、より満足度の高い医療を提供する基礎的データの収集を予定しています。

大学院の指導方針

近年多くの臨床系教室において、基礎的要素の強い研究が好んで選択される傾向にありますが、当教室においては豊富な日常の臨床的経験から発生した疑問、問題点を実践的に解明する臨床系教室の原点ともいえる特徴を生かした研究の実践を目標とし、研究の臨床的意義を常に意識することでその成果を病に苦しむ患者さんの治療に還元できることを目指します。

臨床研究一覧

課題番号 研究課題
R04-183 『脊椎脊髄疾患の多施設共同研究データベース』を用いた成人脊柱変形患者の術後成績調査
R04-079 有限要素法を用いた脊椎広範囲固定術後近位隣接椎間障害予防についての検討
R04-033 骨軟部腫瘍患者における身体機能および健康関連QOLの実態解明に関する多施設共同研究―骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)多施設共同研究―
R03-241 側弯症装具装着患者における心理・QOL評価に関する研究
R03-195 JCOG1306A1:高悪性度非円形細胞肉腫における予後因子および補助化学療法の治療効果予測因子となる遺伝子変異の探索的研究(本体研究:JCOG1306「高悪性度非円形細胞肉腫に対するadriamycin, ifosfamideによる補助化学療法とgemcitabine, docetaxelによる補助化学療法とのランダム化第Ⅱ/Ⅲ相試験」の附随研究)
R03-093 全国骨・軟部腫瘍登録を用いた骨・軟部腫瘍における外科的介入を要する合併症に関する研究
R03-092 担がん患者における、がん治療関連運動器障害の調査
R03-091 単発性骨嚢腫の治療法と長期的な治療成績に関する多施設共同研究
R03-241 椎弓根スクリューを用いた脊椎固定術における有限要素法を用いた固定強度の検討
R03-055 患者レジストリによる脊椎インストゥルメンテーション手術患者の登録調査
R03-168 骨粗鬆症と大動脈弓石灰化との関連性に関する多施設共同後ろ向き研究
R02-122 骨形成性良性骨腫瘍の治療成績
R02-213 腰椎変性側弯症の遺伝子解析に関する研究
R02-125 脊椎脊髄疾患の多施設共同研究データベース作成
R01-213 脊髄モニタリングの波形低下時における対応チェックリストとフローチャート使用は波形低下要因の把握に役立つか? 多施設共同研究
R01-196 悪性末梢神経鞘腫瘍の治療成績に関する多施設共同研究(JMOG055)
R01-088 日本整形外科学会手術症例データベース(JOANR)構築に関する研究
R01-079 脊椎脊髄手術における術中脊髄モニタリングアラームポイントの妥当性
R01-046 術中低血圧麻酔と脊髄血流維持が胸椎後縦靭帯骨化症手術に与える影響
R01-029 タブレット PC を用いた頸髄症患者における巧緻運動機能評価
R01-024 中高齢者原発性高悪性度悪性骨腫瘍の治療成績に対する研究 ‐骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)多施設共同研究‐
H30-171 軟部肉腫を有する日本人患者におけるがん遺伝子検査の有用性の検討
H30-176 骨軟部腫瘍患者に対する腫瘍素因遺伝子および腫瘍細胞における原因遺伝子の網羅的遺伝子解析研究
H30-156 頚椎症性筋萎縮症の予後に対する頚椎アライメントの影響
H30-155 富巨細胞骨腫瘍の臨床病理学的検討
H30-109 大腿骨全置換術に関する多施設共同レトロスペクティブ研究
H30-036 悪性骨軟部腫瘍に対する各種処理骨の長期成績に関する多施設共同研究
H29-118 全国骨・軟部腫瘍登録の実施について
H28-029 日本骨・関節感染症学会「人工膝・股関節置換術および脊椎インストゥルメンテーション手術部位感染の全国調査(J-DOS)」
H28-087 本邦における脱分化型軟骨肉腫の治療成績 骨軟部肉腫治療研究会多施設共同研究

▷各研究に関する情報は医学部倫理委員会のページでご覧ください。

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