大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ病理学教室

研究室・研究グループ紹介:病理学教室

概要

病理学は基礎医学と臨床医学の2つの立場から医学に貢献しており、研究面では形態学に基盤を置きつつ、分子生物学・分子遺伝学の手法を駆使して、様々な疾患の病態・機序の解明を行っています。病理診断および病理解剖を通じて臨床医学としての病理学を学び、人体病理学・分子病理学を含む病理学的研究の遂行能力を身に着けることは、臨床医学を専攻する方にとっても将来の大きな財産となります。病理学の将来を担う人材に加え、臨床医学分野の有為な人材を育成することが病理学分野の責務であり、多様な人材の集う私共の教室には、そのための指導体制も確立されています。国内外の研究機関との交流も活発に行っています。

主な研究テーマ

中枢神経系腫瘍の分子病理学

中枢神経系腫瘍のWorld Health Organization (WHO) 分類は、2016年に出版された改訂第4版から遺伝子―形態統合診断が導入され、日常診療にも分子生物学的解析を要するようになりました。成人型グリオーマはIDH変異と1p/19q共欠失の有無により、「IDH変異星細胞腫」、「IDH変異乏突起膠腫」、および「IDH野生型膠芽腫」の三つに整理されました。しかし、分子生物学的解析を日常的に行うためにはコストも時間も制約が多く現実的ではありません。そこで、我々は、免疫組織化学によるH3K27me3の染色性を検討し、IDH変異乏突起膠腫では染色性が消失すること、染色性消失には免疫組織化学の染色条件が重要であることを明らかにしたほか、H3K27me3の染色性消失がIDH1-R132Hを有するIDH変異乏突起膠腫で高頻度にみられるものの、それ以外のIDH変異を有するIDH変異乏突起膠腫では頻度が低いことを示した多施設研究にも貢献しました。

また、IDH変異星細胞腫の悪性度を規定する因子であるCDKN2Aのホモ接合性欠失について、methylthioadenosine phosphorylase (MTAP) の免疫組織化学がCDKN2Aの代理指標となりえることを明らかにし、さらにIDH変異星細胞腫において、MTAPの免疫染色陽性像の消失はCDKN2Aのホモ接合性欠失と同様、予後予測が可能であることを示しました。

近年、中枢神経系腫瘍の特徴づけには、遺伝子異常に加えてDNAメチル化プロファイルが用いられ、2021年に出版された第5版ではDNAメチル化分類も導入されました。多施設共同研究によって集積された、IDH野生型膠芽腫の組織学的診断基準を満たさないIDH野生型低悪性度グリオーマ(IDHwt LGG)に対し、ゲノムワイドDNAメチル化解析を行うと、既知のいずれの腫瘍型からも独立した、比較的予後良好な一群が同定され、WHO分類第5版では削除された「真」のIDHwt LGGである可能性があると考えられました。ゲノムワイドDNAメチル化アレイは、コピー数解析も可能であり、世界的にみて東アジア地域で発生頻度の高い中枢神経系胚細胞腫(CNS GCT)について、本邦のiGCTゲノム解析コンソーシアムによって集積された世界最大の症例コホートを用いてコピー数解析を行ったところ、精巣胚細胞腫瘍で高頻度にみられる12p gainがCNS GCTにも認められ、さらに12p gainが予後不良因子であることが明らかにされました。

現在、ゲノム・エピゲノムの両側面から中枢神経系腫瘍の本態を明らかにし、中枢神経系腫瘍の診療の発展に寄与する研究に取り組んでいます。

消化器腫瘍の分子病理学

消化器腫瘍(膵癌、胃癌、大腸癌など)の臨床病理学的・分子病理学的研究に取り組んでいます。

予後不良とされる膵癌の研究では、空間的遺伝子発現解析など最近開発された技術を用いた解析も行っています。従来、病理形態学的に癌は不均一な集団とされていましたが、最近の研究の結果、分子遺伝学的にも不均一な集団であり、薬剤耐性などに関与していることが示されています。膵癌について病理形態学的な不均一性と分子遺伝学的な不均一性の関連について研究を進めています。なお、メモリアル・スロンケタリングがんセンター(米国)や理化学研究所など国内外の主要な研究機関との共同研究を行っており、適宜webミーティング行うなどして、緊密な連携のもと研究を進めています。

病理学教室のスタッフや研究テーマについては大学医学部のホームページにも記載されておりますので、御興味のある方はそちらもご覧ください。

最近の所属大学院生の名前が掲載された論文

  1. Kitahama K, Yoshiike S, Nagahama K, Ninomiya N, Okegawa T, Fukuhara H, Nabeshima K, Oka T, Shibahara J. Well-differentiated papillary mesothelial tumor presenting as an encysted hydrocele of the spermatic cord. Pathol Int. 2022;72(6):352-354.
  2. Hirokawa T, Arimasu Y, Chiba T, Nakazato Y, Fujiwara M, Kamma H. Regulatory Single Nucleotide Polymorphism Increases TERT Promoter Activity in Thyroid Carcinoma Cells. Pathobiology. 2020;87(6):338-344.
  3. Hirokawa T, Arimasu Y, Nakazato Y, Chiba T, Fujiwara M, Kamma H. Effect of single-nucleotide polymorphism in TERT promoter on follicular thyroid tumor development. Pathol Int. 2020;70(4):210-216.
  4. Hirokawa T, Arimasu Y, Chiba T, Fujiwara M, Kamma H. Clinicopathological significance of the single nucleotide polymorphism, rs2853669 within the TERT promoter in papillary thyroid carcinoma. Pathol Int. 2020;70(4):217-223.
  5. Ishii J, Suzuki A, Kimura T, Tateyama M, Tanaka T, Yazawa T, Arimasu Y, Chen IS, Aoyama K, Kubo Y, Saitoh S, Mizuno H, Kamma H. Congenital goitrous hypothyroidism is caused by dysfunction of the iodide transporter SLC26A7. Commun Biol. 2019;2:270.
  6. Sawa A, Chiba T, Ishii J, Yamamoto H, Hara H, Kamma H. Effects of sorafenib and an adenylyl cyclase activator on in vitro growth of well-differentiated thyroid cancer cells. Endocr J. 2017;64(11):1115-1123.
このページのトップへ

PAGE TOP